薪ストーブの危険性
薪ストーブと煙突の主な危険は火災です。その他には火傷があります。
低温炭化火災
通常、木材の自然発火温度は約450℃、引火温度は約270℃ですが、100℃以下の低温の熱でも長期間加えられることで極度に乾燥し徐々に炭化=炭になlり、約150℃位でも発火することがあります。(長期低温炭化火災)
ふつう見える場所にある柱、壁などの木材は空気に曝されているので冷やされたり湿気により炭化は進まず目視でも確認することが出来ます。
しかし、その裏側や壁・床・天井の内側は見えないだけでなく、密着していたり空気が動かないので冷やされず熱がたまり乾燥して温度が上がり気がつかないうちに炭化が進行します。
特になまじ表面にモルタルやレンガ タイル 金属などの不燃材が貼ってあると「不燃」だと安心していますが、実際にはレンガなどは質量があり蓄熱をしますのでその裏にある木材などに継続的に高い熱を加える役割をして危険です。 また「断熱」という言葉にだまされやすいのですが熱を「断つ」だけで熱が無くなるわけではなく断熱材も下手をすれば「蓄熱材」に変わります。熱はエネルギーですから「放熱」されないかぎりそこからなくならないのです。
こうして炭化した木材などに150℃くらいの熱が加わると ある日突然発火して見えない壁の内部などから火災が発生します。
よくみかける耐火レンガなどの『ストーブ台』はみかけは豪華で安全にみえても施工方法を間違えると危険です。 (本来耐火レンガは1000℃以上の火熱に耐えて熱を蓄え増幅させるために「炉」に使われるものです。欧米の暖炉などはそれ自身を炉としてその熱を蓄え部屋を暖めるために耐火レンガを使用するものであり、それを真似た「ストーブ台」は似て非なるものです。)
輻射熱と遮熱と空気層
ここでは熱源から輻射(放射)され空間中を伝わり受けた身体や物体から生じる熱を輻射熱といいます。ストーブや煙突の熱は光のように身体や物体に当たって輻射熱となります(感じます)。,熱源が大きく 距離が近ければより強い輻射を受けることになります。これが薪ストーブのあのヌクヌクとした暖かさですが ストーブや煙突は全方向に輻射を発しますので身体だけでなく周囲の壁、床、天井なども強い輻射熱をあたえます。
通常ストーブの全周囲90センチ、煙突の円周50センチ(シングル管の場合)位までの木造(下地を含め)の壁、床、天井とは離して設置する必要があります。これ以内の距離でストーブ・煙突を設置する場合は遮熱などの処置を講じる必要があります。
処置の方法のひとつは周囲を燃えないもので造る方法です。=不燃化。例えばRC造など、これならば加熱されても「燃えない材料」ですから燃えません。この場合表面(仕上げ材)だけでなく内部(下地材)まですべてを不燃材にする必要があります。表面に塗装、中にもウレタンなど可燃性の断熱材や電気配線などがある場合もあります。またその範囲は周囲の木造部分まで熱が伝わらないだけの広さが必要です。
もうひとつの考え方は遮熱です。
輻射は光のように直進しますから輻射を途中に例えば板のようなもので遮ればその板の陰には届きません。でもその板自身は輻射をうけて熱くなりますから不燃性であることが必要です。そして今度は板が熱源となって板の陰に熱を輻射します。この板が質量の少ないもので蓄熱性が低いものであれば陰に輻射する熱は少なくなります。逆に耐火レンガのように質量があり蓄熱性のあるものならばレンガが温まるまでは熱を吸収しますが熱くなってしまえば陰にも長時間強い輻射を発することになります。
遮熱に使う材料はできるだけ質量のない蓄熱が少なく表面から放熱するような薄く広い面積のある金属などの不燃性の薄い板などで それを空中に曝して放熱する状態(空気層)であることが必要です。
あとひとつは断熱です。熱伝導率の低い材質のもので熱の伝わりを断つ方法です。この場合も断熱材自身が熱くなっても可燃物に熱が伝わらない空気層を設けるなどの処置が必要です。
遮熱処置の実践的な方法としては空気層がもっとも有効です。不燃化、遮熱、断熱のいずれの方法を使っても可燃性のものが使われている壁や床、天井などと離して設置する。通常3センチ以上離して熱伝導を断ち、その空間に空気が流通できる通気層=空気層を設けて放熱し空気によって冷やすという考え方です。
当舎は豊富な経験で独自に開発した廉価で簡素なストーブ台や遮熱方式を設置条件に合わせて駆使しています。
煙道火災
煙突のなかに付着したタールは コールタールや木酢液と同じような成分(クレオソート)と考えていいでしょう。油類やメタノールが含まれ加熱されると引火性のガスを発生させます。これにストーブから延びた火が引火すると黒煙を上げて激しく燃え上がり、激しい時は煙突トップからは黒煙と火柱が上がり、煙突が赤くなるほどの高温を発します。そうなると煙突表面についた埃も燃えて散らばりますから 体験した人は足がすくんでパニックになるほどです。タールからのガスが燃え尽きればきえますから時間的には数分でおさまるのが一般的ですが、これを繰り返すと煙突のステンレス材が傷み煙突が破れたり破損したりします。
この高温や埃で周囲の可燃物に着火したり、前記の「低温炭化」をした内部から発火する引き金となります。
もっとも、煙突内での火炎であり 空気の供給が止まれば瞬時に鎮火します。 ダンパーを閉じ、ストーブの扉や給気口を閉じて空気を断てば治まります。
タールの原因である 未乾燥の薪の使用、不完全な燃焼を行わず、煙突の掃除をおこなっていれば予防できます。
なによりも こうした事態にも備えた的確な煙突の設置が肝要です。
煙突について
「薪ストーブ用」の主な違い
現在、煙突のほとんどはステンレス製です。ホームセンターなどで市販されている物のなかには簡易なものもありますが、一般的には通称「JIS合格品」というものがあります。これは石油やガス機器に使用する規格に合格したものです。通常0.3ミリ厚のステンレス板を丸めて筒にしてある継ぎ目が折り合わせてある物(ハゼ折)と溶接してシームレスになっているものがあります。
こうした煙突を薪ストーブに使用することは可能ですが、「薪ストーブ用」煙突は薪ストーブの特性に合わせて次のような特徴を持って作られています。
一般市販の煙突と「薪ストーブ用」煙突の主な違いは
@ 一般の煙突はステンレス板の厚みが0.3ミリと薄く、ものによっては材質も劣ります。「薪ストーブ用」は強い熱にも耐えられるように0.5ミリ以上を使用しています。わずか0.2の差ですが強度としては鉄では約1ミリ位厚みが増える強度差となります。 継ぎ目も溶接されていますのでハゼ折物のようなタール漏れがなく強度も安定しています。
A 一般の煙突に比べて「薪ストーブ用」は煙突を繋ぐ差し込みの精度が高く、差し込み方が一般は上筒側が凹、下筒側が凸、「薪ストーブ用」はその逆となっています。(逆差し)
この理由は、煙突内にタールが発生した時に外側に漏れないようにするためです。煙道火災が発生した際にその安全性が発揮されます。
B 二重煙突があります。ステンレスの内筒と外筒の間に25ミリのロックウール断熱材を充填してあります。断熱材のない空洞の物もありますが効果は劣ります。
二重煙突の本来の目的は煙が冷えない保温です。煙は外気との温度差で上昇(吸引)しますが途中で冷えると吸引力が低下するだけでなく 煙のなかの水蒸気が液化し木ガスと結びついてタール ススとなり煙突を詰まらせます。これが低減するとともに断熱されているので煙突表面からの輻射熱も少なくなり周囲との離隔距離も少なくすみ、断熱材と二重なっているので煙道火災の際にも煙突の破損火炎が防止できますので 小屋裏や屋内の貫通部には法規上でも二重煙突を使用します。 なお、万全の断熱性能を求める場合にはさらに大口径の断熱材と外筒の物を使用します。
C その他 黒色のものはステンレス筒に耐熱塗装を施してあります。性能は変わりませんが、汚れ 変色の目立たない利点があります。
なお、当舎は、既製品の他に 独自開発したコーキングを使わない屋根貫通や室内からの煙突掃除など独自の部材開発をおこなっています。
参考
薪ストーフ゛ 煙突 関連法規
建築基準法第2条 不燃材料
建築基準法施行令107条第2号 可燃物燃焼温度
注 低温炭化を念頭にしたものではないので注意
建築基準法第35条 内装制限
国交省 告示第225号 平成21年4月1日 施行
ストーブなどの住宅の火気使用室の規定 建築基準法施行令第129条の規定による「準不燃材料でした内装の仕上げに準ずる仕上げを定める告示」
建築基準法施行令20条 火気使用室の換気設備等
建築基準法施行令115条 煙突一般規定
省告示1404号 一般規定適用除外煙突
省告示1168号 煙突の小屋裏構造
消防法 9条 火を使用する設備、器具等に対する規制
関連火災予防条例 以下などの各条
火災予防条例準則第5条 ストーブ
火災予防条例準則第5条 壁付き暖炉
火災予防条例準則第17条 煙突
火災予防条例準則第19条 固体燃料を使用する器具